ケータイ小説 野いちご

眠れないほど好き【短編】

「なんですか?」

「大事な用事」

「え?」

「市羽さんに大事な用事がある。ちょっと付き合って」

「え?」


唐沢は背を向けて歩きだした。

唐沢の言動についていけず立ち尽くした。

用事がわたしにあると云ったわりにわたしを置いてさっさと歩いていく。

ああ云われた手前、上司を放るわけにもいかず、唐沢を小走りで追った。


ふたりともが無言で歩き、気づくと会社のまえまで戻っていた。

往きを案内しただけで復路を迷うことなくたどり着けるあたり、妙に感心した。

唐沢はそのまま通りすぎ、ちょっとさきのマンションに入った。

こっちにいる間、唐沢が借りているマンションだ。

何度か頼まれた私物を調達して持っていったことがある。

唐沢は二階まで階段を上り、部屋のまえで立ち止まった。



「唐沢代行、何か入り用ですか!?」



さすがに不安になって訊ねた声は不自然に大きくなった。

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