ぽた……ぽた……



 と。

 水滴はゆっくり落ちて来る。

 耳を澄ませば、良い音だった。

 ……他には、キアーロの耳に、何も聞こえなかったから。

 舌を、ぎりぎりまで伸ばせば、鎖を揺らさなくとも、ようやく届く、その水滴を。

 舌先で味わえば、とても美味だった。

 他に、王子が飲んだり食べたりするものは、何もなかったから。

 いつから、こんな風に捕えられてしまったのか。

 今は、もうキアーロ自身、あまり、覚えていなかった。

 雨神の生贄となり。

 地上に雨を降らす代わりに。

 鎖がゆっくり、容赦なく広げる傷と飢えは。

 キアーロの精神と体力を、大幅にすり減らし。

 迫りくる死神の足音を予感させたけれども。

 キアーロにとって、時間の概念は、無意味で。

 昼か、夜かも。

 何日、ここにいるのかも。

 大した意味を持たなかった。