「今月あるはずの月経が来なくっておかしいと思ったの。検査したら妊娠2ヶ月だって言われた」

愛し合っているあたしたちの間に子供ができるのはとても嬉しいこと。

それなのに、青ざめた慶介の顔色を見るとなぜか不安を掻き立てられる。

あたしは今日の朝ごはんの献立を言うみたいに機械的に口を動かした。


そうしてまた無言になる慶介は、今度は拳をつくった手を顎(アゴ)に乗っけて何かを考えているみたいだ。

眉間にある深い皺は一向に消える気配がない。

その姿はあたしをとても不安にさせてくる。

心臓がドクドクと早鐘を打つ。

あたしの胃は、まるごとギュって握られたみたいに息苦しい。


このまま沈黙を続けていると、あたしの何かが奪われていきそうで怖くなる。

それが嫌で、慶介になんとかしてほしくて口をひらいた。

「…………けい」


あたしが彼に言葉をかけたその時だった。




「おろしてくれ」



慶介の無情な言葉があたしの耳に届いた。



「え?」

あたしは慶介の言った言葉を理解したくなくて、藁をもすがる思いでまた訊いた。

それなのに……。


「たのむ。中絶してくれ」


慶介は前言を撤回なんかする気もなかったらしい。

同じような言葉を言い換えて、薄い唇を動かした。



――なんで?

――どうして?

慶介なら、あたしのお腹に赤ちゃんができたこと喜んでくれると思った。

それなのに、慶介の言葉は鋭いナイフと化してあたしの心臓を深く突き刺した。