林さんの視線が気になった。

俺はおまえを引きずるようにして死角に入る。

「ここはおまえみたいな女が来るとこじゃねぇ」

もう俺に関わるな。
ろくなことにならない。

忘れろ、俺のことも、

俺がここにいたことも。

「二度と来るな」

おまえはほんっとにバカだ。

何で来た?
これがどれだけ危険なことかわかんねぇのかよ。

世の中にはな、隙があればおまえみたいなやつを利用してやろうって機会をうかがってるやつがウジャウジャいるんだ。

そう、俺みたいなやつがな…


しばらくして林さんに呼び出された。
その時ほど俺は、林さんを恐ろしいと思ったことはない。

「加瀬博子、30歳。旧姓、葉山」

淡々と読み上げられる報告書に、
俺は「しまった」と思った。

「夫、加瀬達也、31歳。
県警本部捜査1課所属。階級、巡査部長」

俺は目を閉じる。

さすがですよ、林さん。

抜け目がない。
とことん調べ上げてる。
なんて人だ…


「あの女、おとせよ。
いざという時に警察情報を聞きだせるようにしとけ」

そう言う林さんの顔を見て思った。

自分は試されている、って。