俺が剣道教室に行ってる間に
親父がプレゼントを
おふくろがケーキやご馳走を
用意してくれるはずだった。

そんな時だった。

花火大会でごった返す中、
前方不注意の車に
親父が跳ね飛ばされたのは。

即死だったそうだ。

胴着のまま病院に駆けつけた時、
親父は俺が頼んだゲームソフトを
しっかり胸に抱いてた。

青いリボンが引きちぎられて
包装紙もお情け程度に残ってただけ。

俺へのプレゼントを探し歩いて
ようやく見つけて帰る途中の事故だった。

咄嗟に
「俺が、殺した」って思ったよ。

俺が親父を試すようなことをしたからだって。


心が一瞬にして
凍りつくのがわかった。

涙も出なかった。

その時、俺は一生泣かないって誓ったんだ。


涙を流す資格なんて
俺には、これっぽっちもないってな。

葬式のことなんて記憶にない。

親戚に言われた通りに動いてただけだ。


ああ、でもひとつ、これだけは覚えてる。

蝉の声とお経が入り混じって、
変な感覚に陥ってたことだけは覚えてる。


親父の葬式の次の日。

剣道教室に来た俺を見て、
博子、おまえは目をまん丸にして驚いてたな。

大人たちや他のやつらは
俺を哀れんだような目で見ていたが、
おまえだけは違った。

ただただショックを受けてた。

異様な光景を見るみたいに。

なんだ、こいつってその時は思ったが、
同情の目を向けられるよりは、はるかによかったよ。