「ね、ねぇ啓太」

「何?」

「啓太はさ、その……冬休みは、何か予定とかあるの?」

「そうだなぁ……毎年お正月には母の実家に行きますけど、それ以外は暇ですかね」

「そうなの?じ、じゃあもしよかったら――――」

「二人でどこかへ出掛けませんか?」

「っ!!……けっ啓太……!」






(夏休みのうちから、もう冬休みの予定……か)

舞白は目を細めて、隣のベンチで並んで座るカップルの会話に耳を傾けていた。

女の方が膝の上で持っているかき氷の器の中身は完全に溶けきっていて、最早ただの甘い水だ。

美しい蒼い髪とは逆に、俯く少女の顔は真っ赤に染まっている。



焦れったい。苛々する。かゆい。

あの二人を見ているとそんな言葉ばかり浮かんでくる、と皆は言うが。

舞白は至って穏やかだった。

そんな気持ちでいられるのは、自分の淡白さと男の方がいつになく強気な事、そして二人への強烈な憧れ故か。


いつもやけに気にしている愛用の懐中時計も、今日はポケットに入れっぱなしだ。