そんなしんみりした雰囲気を吹き飛ばしたのは、やっぱりチョコだった。

……本当に、コロコロ話題を変えるヤツだな。


「そうだ! 今日余ったお金でまた、お昼のラーメン屋さんに連れて行ってね」

俺たちは今日、待ち合わせをした駅前で新しいラーメン屋を発見して、そこで昼飯をすませた。

それは、広くもなければ小綺麗な店でもないけれど、仲むつまじい夫婦がやっている、温かい雰囲気の店だった。


「またか? 次はラーメンじゃなくて、もう少しいいとこ選んでいいんだぞ……?」

「いいじゃん! あのラーメンすっごく美味しかったんだから!」



そう言うと、チョコはまた俺の腕を引いて半歩前を歩く。

「ねえ、次はどこに行く?」


いつもそうやって、俺の前を行くチョコ。

俺はそんなチョコに振り回されっぱなしで……。



──だけど、たまには俺だって。



そうだな。

ヤマタロみたいにかっこよくは決められないかも知れないけれど。



「蝶子!」


俺は歩幅を広げてチョコの隣に並ぶと、組んでいだ腕をゆっくりと離し、その手をそっとチョコの腰に回した。



「まだきちんと言ってなかったよな。──昨日はごめん」




そう言うと俺は、薬指にはめられた指輪がくすぐったい右手で、愛しいチョコの体をぐっと引き寄せた。



《陽人編・終》