陽人のヤツが、辛気臭い顔でこっちを見た。

「お前の相方の忘れ物だ。返しといてくれ」

「馬鹿言うな。お前こそ家、隣だろ。自分で持って行けよ」


……っていうか、これを“忘れ物”と呼ぶか?

こいつ、よっぽど悪意を持ってロッカーに投げ入れたんだろうな。
かろうじで残っていたポテチの屑はほとんどオレの制服の上に散乱していて、その中身は空っぽだ。

こんなの、ただの“ゴミ”じゃないか。


オレはロッカーからプリングルズの筒を取り出すと、そのまま部室の隅のゴミ箱に放り投げた。

「ガキみたいなことするなよな」


陽人は、まるで死んだ魚のような目で“ゴミ”が緩やかな放物線を描いてゴミ箱へ吸い込まれていく様をじっと追いかけていた。


そして、それを見届けると、いつもよりさらに低い声で呟いた。


「お前たちのせいだからな……」


……ウザ。


コイツの辛気臭い顔の理由は、ただひとつ。
チョコとのケンカだ。


今朝オレは、陽人に昨日の一件についてうるさく文句を言われることを覚悟して部活に出てきた。

めんどくせーけど、確かに悪ふざけが過ぎた気もするし、まぁ、黙って小言くらい聞いてやるか、という感じで。


だけど今朝会った陽人は、怒っていると言うより世界中の不幸を背負ったような落ち込みっぷりで、オレの顔を見てもため息をついただけだった。

……まあ、その裏であんな嫌がらせをしてくれていたわけなんだが。