メールを返すのも面倒くさい。

私は隣の東雲に直接声をかけた。


「ねぇ、東雲。どうしてそんなことするの?」

東雲が声にならない悲鳴を上げたような気がする。


東雲は前を向いたまま、小さな声で言った。

「ぼ、ぼぼぼぼ、僕は、彼女が好きなんです!」

「ん?」

よく意味が分からないんだけど。
メールの相手が好きだって言うこと……だよね?

「でも、彼女は、僕が女だと思っているから相手をしてくれて、いろんなことを話してくれているわけで」

「うんうん」

必死な東雲。

「男で、それも高校生で、こんなさえないヤツだって知られたら、彼女は絶対相手にしてくれないんです」

「うん……」

「だから、彼女と話すためには、自分を隠すしかないんです!」


えーと。

高校生だと相手にされないって。

相手は大学生? 
OL? 
まさか人妻?

それとも、もしかして……年下?



……怖いから、これ以上詳しく聞くのはよそう。



東雲は興奮してきたのか、だんだん声が大きくなる。

「僕だって辛いんですよ? だけど……だけど……」

敬語なのは謎だけど、でも、いつものしどろもどろな東雲じゃなくて、しっかり話せてるのはすごいと思う。

「僕は、純粋に、彼女のよき親友でありたいだけなんですっ!!」

「はーい、東雲それまでー」

滝田先生が手を叩いた。

「授業の邪魔になるから、もうちょっと小声でしゃべってくれない?」


教室中が大きな笑い声に包まれた。

東雲の顔は真っ赤だ。

助けを求めて、涙目でこちらを見ているけど……。

私は苦笑いをして

「あとで、ゆっくり聞かせてね」

と言った。


ちょっといじめ過ぎちゃったかな。

ごめんね、東雲。