抱きついたぼくに、彼女はあらがわなかった。


こうなることを承知で、それでも声をかけてくれたのかもしれない。


「…………」


素通りするその他大勢と別で、母性をたぶんに含んだ心の持ち主なのだろう。


辛そうに雨に打たれる男を、きっと放っておけなかったんだ。


そんなふうに思いながら、ぼくは甘んじてその胸を借りて涙した。