「武井せんぱーい?」



私は席に着くなり、歩斗のネクタイを引っ張った。



「何だよ」



「モテモテ?」



「超モテモテ」



「ふーざーけーるーなー!!」



「お前がだろ」



ファイルで頭を殴られ、私はシュンとして、助けを求めるように課長を見た。



「野良犬みたいな目で見ないでくれ…。飢えた人間はな、抱き締めたくなるんだ…」



課長は私に伸ばす右手を、左手で自分の方へと引っ張る。

…頭、大丈夫?

思わず心配してしまいながら、嵯峨さんを見ると、左手をチラチラ見せて来た。

薬指には、昨日までなかった指輪が輝いてる。

結婚指輪だろう。