「ケンカ中?」

「ええ、まぁ…」

ケンカをしているワケではないが、誤解はあると思う。

「じゃあ、早く仲直りしないとね」

多江さんは目を細めた。

まるで包み込むような、優しい笑顔。

高森さんの言葉を思い出した。

『彼女、何か変なこと言わなかった?』

変なとこなんか、なんにもない。

あたしがどういうことか訊いたら、高森さんは慌てて言葉をにごした。

一体、何なんだろう。

多江さんの携帯がメロディを奏でた。

彼氏さんからのメールが届いたのだろう。

多江さんは嬉しそうな顔で、画面を見つめた。

「彼氏さんはお見舞いに来ないんですか」

あたしは訊いてみた。

「それは無理よ」

「え、お見舞いに来られないんですか」

「そうよ」

「仕事か何かで?」

多江さんは首を振った。

「彼、もう死んでるの」

「え…」

「彼は去年死んでしまったの。だからお見舞いには来られないのよ」