何か津坂の顔が赤く見える。気のせいだろうか。

私にときめいてる?
…いやいやまさか。
そこまで自意識過剰じゃないしね。自重自重。
私にときめける部分なんて無いし。自嘲自嘲。

「あの、さ」
「?うん」何でしょう。
「何か、あったら、俺のとこ、連絡くれれば、…いいから…。」

途切れ途切れに言葉を紡ぐ津坂くん。

「あーっと、メール、してくれれば良いから…」
駄目? と寂しげな目をしてくる。
「いいかな?」
…。
「…いいともー」

というか、そんな表情で言われたら断れない。断る理由もないけど。
…何かコイツ、犬みたいだな。

「あの、俺居ること忘れてない?」
「…いたのか水貴」
「……」
なかなかに辛辣な言葉を浴びせてます津坂くん。


「く、ふは」こちらとしては、少し、笑けてきた。

あぁ、うん、笑えている。
手を顔に伸ばして自分の表情を確かめる。笑ってる。
…よかった。

「それじゃ、後でメールするね、ありがとう二人とも。」

今度こそ家に入る。

ドアを閉める前に、空を仰いで月を見た。
闇夜に雲がちらほらと浮かんでいる。

…そういえば、昼間はどしゃ降りだったのに、いつのまにか止んでる。

「…うん」
誰にむけるわけでなく、呟いた。

…うん。
あとしばらくは、生きることが平気そうだ。