「すいません、違います」と、首を振った私に、男の人はムッとした表情のまま、私から90度、体を反対に向けた。

しかし、歩き出そうとしない。



「新人が何キレとんねん」



「た、高瀬先輩;;」



そこには紀斗さんが居たからだ。

後輩であるらしいその人を、彼は口元だけ笑って見下ろして、何かを告げた。

私には聴こえなかったけど、男の人は頭を下げて足早に去る。



「大丈夫か?」



「うん。ちょっと、ビックリしたけど…」



肩の力を抜いた私の頭を撫でてくれた彼に、心にあった怖さはなくなった。