「もうっ! 早くバイト行かないといけないんでしょ!」


「はいはい」

 必死になってるあたしに、旬君はまだ少し笑っていたのがちょっと悔しかった。


「じゃあまたな!」

 旬君は最後にそう言って、大きく手を振りながら歩き出した。


「うん。またね」

 あたしも、そう返して、手を振った。


 そして、あたしは離れていく旬君の背中を、見えなくなるまで見つめていた。



 今日、旬君と一緒にいて、あたしは旬君のことを好きになったのか……それは分からない。


 ただ一つ、はっきりとしたのは、あたしは旬君のことを、嫌いになることはないだろうということ。何故かは分からないけど、そんな気がした。


 今のあたしは、旬君との『また今度』を楽しみにしていて、今日が始まるまでの自分と違うのは、明らかだった。


 だから、大丈夫。これから、ちゃんと付き合っていけると思う。旬君……じゃなかった。旬、と……



 こんな複雑な気持ちを抱えているあたしが、一年後にはどう変わるかなんて、今のあたしには、想像もできないことだった。