「りいお姉ーっ、お帰り!」

 賑やかな声がしたと思ったら、今度は松汰が飛び出してきた。

「ねえ大丈夫っ?いきなり怖い顔して刀掴んで走ってくからおいら心配しちゃったんだよ?」

 くりくりした瞳で見上げてくる松汰。

「ああ…驚かせてすまぬ」

「まあ…大丈夫ならいいんだけどさ。おいら本体ががっちり植わってるから、あんまりここから離れらんないんだよね、だから…」

 唇を尖らせる松汰。確かに植物精の中に自分で動き回れるものは少ない。様子を見に行けない己をもどかしく思っていたのだろう。

 りいは思わず松汰の頭を撫でた。

「…心配させてしまったな」

 ぱっと松汰に笑顔が戻ってくる。表情豊かな精霊だ。

「んー、いいよー別に。近くに晴明お兄の気があったからちょっとは安心だったしね?」

 悪戯っぽく微笑んでみせる。

「…そういえば、松汰は陰の気を感じたか?」

 問い掛けというより、それはむしろ確認である。

 精霊はりいなどよりずっと鋭い。気づかぬはずがなかった。

 …だが。

「…それがさ、よくわかんないんだよね」

 表情を曇らせる松汰に、りいは驚いて聞き返す。

「わからない?」

「うーん…いや、確かに最初はあったんだけどすぐ消えて…」

「松汰?」

 その時、部屋の奥から呼ばう声がした。

 真鯉の声である。

 松汰が首をすくめた。

「いっけない、忘れてた!真鯉お姉が夕餉できたから呼んでって!」

 振り向いて大きな声で今いくよー、と叫び、松汰は急いでりいの手をとった。

「さ、行こっ、りいお姉!冷めちゃうよ!」

「あ、うん…」

 …肝心の部分を聞き逃した気がする。

 松汰に手を引かれながら、りいは首を捻った。