ケータイ小説 野いちご

リトルロード・セレナード ~赤の王女と翡翠の騎士~

★第一章★ 森でひろった女の子(中編)


 豪奢な馬車が王領を通り過ぎていく。
 やがて領土の境目が近づくと、麓の大きな町で荷馬車を取り替えた。内装こそ美しいが、外見は普通の馬車と変わらない。
王族が乗るには不似合いだった。

 馬車を乗り換えるには理由がいくつかある。

 まずは馬の休息と交代。
 馬とて休まなければ進めない。かといって遠路となれば、同じ馬で無理に走り続けるのは自殺行為だ。
 多くの人間は、馬を家と同様の財としている。維持費もかかるし、一生に数えるほどしかない大きな買い物だからこそ、どこまでも乗っていく。けれど長生きさせるには、それ相応に手をかけなければならない。城の馬とは、一旦ここで別れる。暫く預けることで帰ってきた時の為に休ませる。復路を別の道で通るなど、場合によっては信頼に足る業者に預け、城へ送り返すこともあった。

 もう一つは盗賊や追い剥ぎなどへの対策だ。
 平穏なリリシエルにも貧富の差は存在する。国外から流れ込んでくる者も多く、険しい山や深い森に人目を避けて住み着くことも多い。美しい車に乗ることは身分差をひと目で知らしめるが、逆を言えば『どうぞ襲ってください』と言っているようなものだった。
 よって内装は特注ながら、外装は普通の馬車と遜色がないものに偽装する。
 この時ばかりは、王国軍の騎士達も変装を行い、紋章の入った甲冑を脱いで別の荷車に隠すこともあれば、荷馬車を増やして行商人を装い、数名の兵を残して多くを荷台に押し込んだり、ある者は頭からすっぽりと汚い襤褸のフードをまとうことで、ごろつきの雇われ護衛を装うこともあった。

「まったく、俺はわざわざ買い付けにいかされたんだぜ」
 アレクシスが出発の準備を整えていると、先輩騎士の愚痴が聞こえてきた。朝早くに叩き起こされ、人数分の襤褸のフードを新しく買い込まされたという。それも前の山道で使った比較的新しいものを売り払ってまで、改めて、より汚いものを用意した、と。

 アレクシスは姫の所を訪ねる前に、騎士団長の寝室を訪ねた。
「失礼します。お時間よろしいでしょうか」

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