隣の奴よりも速く、とか。



優勝する、とか。





…正直、何も無かった。



走る直前までは考えていても、地面を蹴って走り出した瞬間…そんな気持ちは全て消え去っていた。




「っ…」



重力から解き放たれたかのように、軽やかに体が動くのは幸せだった。



風に溶け込むこと以上の幸せはなかった。





「は…」



…周りの声も、耳に入らない。



暑さも感じない。





ただひたすらゴールを見つめて。






あと、少し…



あと…少し…







…青空に輝く太陽が、体を照りつける。



絡み付く光を、透明の風が解いて包み込む。







ゴールは…目の前…