昼過ぎ辺りから客の入りが一気に増え出した。

 何時もの常連は勿論の事、ストリップとは縁の無さそうなタイプの客も入って来ている。

 開演してから二時間も過ぎると、ついには場内入口の扉が閉まらなくなった。

 舞台袖辺りに陣取っていた踊り子達の追っ掛け達は、後から後からと入って来る客に押し寄せられ、身動きが取れなくなり、トイレにも行けない始末となった。

 一人ワンステージ約二十分から二十五分。

 無難にそれぞれのステージが進行して行く。

(あのな、今回の出し物は、女郎蜘蛛って言って、デカイ被りもんみたいな衣装やねん。見た目殆どコントやで)

 僕にそう告げた姿月の笑顔が浮かんで来た。

 トリ前のステージが終わる。

 客席は立ち見を含め、照明室から見下ろすと、人の頭しか見えない。

 暇な時は数人なんて時もあって、無意識のうちに仕事のやる気も低くなっているものだ。

 客の入りが良ければ照明をする自分のテンションも上がる。

 照明マンとしては、どんな状況下であっても、常に最高の仕事を目指すのが当たり前なのだが、この辺りの心持ちは正直言って偽ざるところだ。

 一呼吸置いて、姿月の名前をアナウンスする。

 音出し。

 閉められた緞帳の向こうで、舞台中央にスタンバイする姿月の気配を感じた。

 緞帳のスイッチに指を掛け、流れ出した音楽と同時に押した。

 幕が開く。

 舞台中央で黒い塊と化している姿月。

 真後ろから淡いブルーのライトを当て、逆光にする。

 舞台天井からは細いスポットを落とし、彼女の姿が逆光の中に浮かぶようにした。

 蜘蛛を形作った馬鹿でかい衣装を背負うかのように着、ゆったりとした動作で顔を上げ始めた。

 顔の動きに合わせ、照明室からピンスポットを開けて行く。

 絞りを徐々に開け、光りの輪の中に、女郎蜘蛛がいる。

 開演前に見た姿月の姿はそこにはなかった。

 僕の背中に軽い電気が走った。