「満月まで、あと一週間ですか。…一月(ひとつき)は早いですね。」


咲夜さんが、そう、しみじみと言った。もうすぐ、私がこの世界から出て行く“期日”だ。

…初めは早く帰りたいと思っていた。知らない世界で、初めての体験がたくさんあって、不安に押しつぶされそうで、怖かった。

でも、温かく迎えてくれた人たちのお陰で、この屋敷の一員として、楽しく過ごすことができた。新たな出会いの中で仲良くなった人たちと別れることになると思うと、やっぱり寂しい。


「そういえば、伊織様を見かけませんでしたか?今日は午前中に公務があって、そろそろ帰ってくるはずなのですが。」


「えっ!い、伊織…?すみません、私も最近、あまり話せてなくて…」


すると、私の態度に何かを察したような咲夜さんが、目を細めてぼそり、と言った。


「…なんだ。夫婦喧嘩ですか?早く仲直りしてください。伊織様は割と仕事に支障が出るんです。」


「そ、そんなんじゃないです!!それに、私と伊織は夫婦では…」


すると、きょとん、とした咲夜さんは、疑うような瞳で私に続けた。


「最近の仲睦まじさは、どこからどう見ても本物の夫婦のようでしたよ。…てっきり私は、とっくに進展しているものだと思っていましたが。」


「!」