その日から、潤くんと私との十年来の友人みたいな関係がはじまった。
 卓球やバドミントンって、お互いの実力が似通っていたほうが楽しめるでしょう? 
 そんな感じよ。
 潤くんになら、気持ちの全部を言える(バカとかドジとか、けっこう言いあってる)。
 潤くんとなら、なんでもできる――。


 ビニール袋のなかは、薄力粉とベーキングパウダー。
 空気をたっぶり取り込んで、袋の口をねじり、よーく振る。
「おお。サラサラだっ」
 感心したような潤くんの声に、私もつい得意になる。
「こうすると、粉振るいの必要がありません。しかも周囲も汚れません」
「おお。先生だ。料理の先生だ」
「……潤くん、卵白の泡立ては?」
「ハイ。ただちにいたします」

 ――時は十二月二十三日。クリスマスイヴイヴの天皇誕生日。
 私は川崎家のクリスマスケーキを潤くんと作っているところ。
 潤くん家に来たのはこれで……何度目? 八度目? 九度目? 
 とにかくよく遊びに来てはいるわね。
 だってこの家、本当に面白いんだもん。
 このまえおじゃましたときなんて、書庫を見せてもらったよ。
 書庫よ、書庫。
 世のお父さんが憧れるような書斎じゃなくて、万単位の冊数がある本の空間よ。
 学校の図書館よか蔵書が多いんじゃない?

「お父さん、なにやってる人なの?」
「市議会議員。母さんは華道の先生」
 ふうんとしか返事が思いつかない。