未歩は私を避けるようなことはしなかった。
 移動教室のときも、お弁当を食べるときも、いつもと同じ。
 どちらかといえば、私のほうが未歩を避けた。

 あのときの私は夢中のあまり、受けとめることのできない豪速球を放ったんだ。
 手から一度離れたボールはもう帰ってこない。取り返しがつかない。
 そんなの、知ってたはずなのに。
 それなのに、傷つけた。
 どうしてこうなんだろう。
 言わなくていいことを、したり顔で言って……最低。


 テスト期間中は部活動がないので、私にとっては好都合だった。
『勉強しなくちゃ』のひとことで、わずらわしいことを回避できる。
 未歩には『図書館で調べることがあるから』と言って、さきに帰ってもらうことにした。
 そしたら未歩のほうも、塾の特別授業があるとかで、あいさつもそこそこに教室を出ていった。
 放課後の教室にいたらクラスメイトにつかまるので、私はひとり、図書館へ向かう。

 そもそもテスト勉強なんて、みんなでやることではないと思う。
 私はどうしても教える側にまわってしまい、終わるころになって自分の問題集が三問しか進んでいないのに気づく――なんてことが、よくある。
 みんなは『教えるっていうことは、わかっていなくちゃできないことだから、わかっているかどうかの確認になる』と言う。
 じゃあ、私のわからないところはどうすればいいのよ。

 蔵書の少ない、『図書館』より『図書室』に近い部屋は、すでに生徒でいっぱいだった。
 クーラーがあるから、勉強するには絶好の場所。
 同じクラスの男子もいた。

 ……困ったな。
 席、あるにはあるけど、なんか座りにくい雰囲気。
 知りあいはいないかな、と見まわしていたら、声をかけられた。

「ここ、あいてるよ。柏さん」

 わあっ、生徒会長だっ。
 生徒会長に、名前を呼ばれちゃったよ。
 私、ひょっとして有名人? と思ったら、会長の隣には潤くんがいた。
 なんだなんだ。ますますわけわかんないぞ。
 会長と潤くんは、面識があったの?