「すきなんだ、」



言葉と同時に吹いた風が、私の黒いショートボブの髪を揺らした。

放課後の中庭、真摯な表情でそう発したのは、密かにいつも目で追っていた憧れの彼。

欲しくてたまらなかったその告白は、なんて、あまい響きなんだろう。



「ずっと、すきだった」



たとえば廊下ですれ違ったときとか、こっそり覗いていた部活動のときとか。耳に入るたびドキドキしていたあの優しげな声で、彼は繰り返す。

……でも悲しいかなその言葉は、私に向けられたものではなくて。



「うそぉ……か、金子くん……」



開け放たれた窓のさんに両手をかけ、前方の光景を見つめたまま呆然とつぶやく。


蓮見まお、17歳の高校3年生。

偶然すきな人の告白を目撃してしまうというなんともお約束なシチュエーションで、たった今失恋が決定いたしました。