「花村さん、こないだの発注書のファイルもって、ちょっと打ち合わせ室にいいかな?」

翌日の朝イチ、理一君に呼び出された私は指定されたファイルと筆記用具をもって打ち合わせ室に向かった。

この光景は最近の経理部ではおなじみ。まだまだ難解な書類手続きに不安のある私に、実際の書類を見ながら理一君が指導してくれるのだ。

本来なら先輩の女性社員が指導してくれるのだけど、私の指導係の先輩は妊娠による体調不良でここ数か月お休みする事が多いから、理一君が代役をしてくれている。

理一君だって部長さんなんだし、暇な訳じゃない。でも縁故入社の私を教えるのは気を遣うだろうと部員への心配りだそうな。

先輩や他の部にいる同期とだって仲良くやっている私としては大きなお世話だと反発したいところだけど、なにせ上司の心配りだからありがたく受け入れるしかない。

「松木部長、こちらでよろしいでしょうか?」

ファイルを机の上に置いて確認を求めたら、理一君が携帯を出してきた。