「へえ、稲葉の弟って双子なんだ。かわいい?」

「う、うーん。まあ、まだ小一だしな。生意気で騒がしいけど」

「結構年離れてるんだ。じゃあ可愛いね」


 あれから一週間、実はインフルエンザだったらしい舞は学校を休んでいる。

 いつも舞と一緒に帰っていた私は、毎日舞に明日の時間割とその日配られたプリントを届けに行く。
誰もいない放課後の教室で稲葉とおしゃべりをした後で。


「篠塚は兄弟いないの?」

「うん。舞と一緒で一人っ子」

「ふ~ん…………あのあと、三笠とどうなった?」

「キスしようとしたのはバレなかったよ」

「それって、よかった?」

「そりゃあいいよ。まだ舞の側にいたいしね」


 去年も稲葉と同じクラスだったけれど、まともに喋ったことはほとんどなかった。

 小学校のころみたいに無闇やたらと敵視することもなかったけど、男子と女子の間には深い川が流れてるみたいだった。
 異性に興味津々なのに実際には近づけなくて、よそよそしい。
 このクラスは、そんなお年頃。

 必要以上に異性と仲良くしない。
 暗黙のルールとして存在するその隔たりが、いったいどんな感情によって生まれているのか。

 私は知っている。
 きっと稲葉も知っている。