「こういうの、もうやめにしね?」

 私はわさび味のポテトチップと発泡酒を抱え、ナオの部屋のソファに陣取っていた。学生時代からはまっているアーティストのコンサート映像を観るべく仕事を定時に切りあげて、駅売りのきれいなデリを手土産にこうしてやってきている。

 コンサートといっても今放送されているのではなかった。番組表をチェックして、まえもって録画していたものだ。ここ数年、彼らは全国ツアーを精力的に行っていた。私は首都圏に住んでいるけれど、ここのところタイミングが合わずライブ参戦から遠ざかっていた。そんな現状だったから、これは彼らの今を知ることができる貴重な機会だった。

「もうこんな思いはしたくねえよ」

 映像が終盤ともなれば、買ってきたお総菜は空の容器を残すのみ。売場にあったときの色鮮やかできらきらした様子は見る影もない。

「おまえは平気かもしれねえけど、俺はっ……」
 けっこう値が張るし、余らせても困るしと少なめに買っただけにまだ小腹もすいていて、おにぎりだったら余裕でひとつ入りそう。

「くそっ、なんなんだよ」

 で、ナオの食品保管庫からポテトチップを失敬したのだけれど。


「人の話くらい聞けってんだよ」

 作業机に向かっていたナオがこちらを見ている。私は映像を一時停止し、ヘッドフォンを外した。

「呼んだ?」

「呼んでる。さっきからずっと呼んでた」


 ナオは私の注意が向いたと知るやいなや、憮然とした顔つきで正面に向き直る。そこにあるのは一般家庭に置くには大きめのディスプレイだ。陰影を強調したカラーイラストが表示され、頬を染めた女の子が強い目で睨みを利かせていた。動きのある構図と大きすぎない胸が売りだとナオは得意げに言っていたっけ。

「漫画のセリフ読んでるのかと思ったんだもん」
 私は発泡酒の残りをあおった。