それから、私たちは何事もなかったかのように過ごした。
もちろん、前と変わらない頻度で飲んでいるし、前と変わらない距離を保っていた。
一つ、変わったことがあるとすれば。
私は悟に『好きだ』と言うようになった。
そして、他の常連の仲間達にも同じように『好きだ』と言うようになった。
それを言うと、みんなが最後に私に聞いてくる言葉がある。
『じゃあ、涼ちゃんは?』
そう、言ってくれる。
いや。
言ってくれるように『私が仕向けている』と言った方がいい。
その言葉に、私は必ずこう言う。
『大好き。誰より好き』
そう、言う。
確認させて。
口に出すことで、涼ちゃんが一番だ、って。
他に大切なものなんてない、って。
心から、そう想っている、って。
不安で、たまらなかった。
距離が遠いことが、こんなに気持ちを不安にさせるなんて、想いもしなかった。
近くにいて、顔を見て。
其処にいることを触って確かめて。
その匂いを。
その感触を。
その声を。
その存在を。
身近に感じることの大切さを想い知った。
私は弱くて、卑怯で。
我が侭で、強欲で。
いつも真っ直ぐでなんていられないのだと知った。
結局、大切なのは自分のことばかりで。
誰かを傷付けてでも自分を守りたいのだと知った。
きっと。
悟はそんな私に気付いていた。
だけど。
何も言わずに、同じように傍にいてくれた。
そのことがどんなに嬉しかったか、悟は知らない。
そのことが、どんなに苦しかったのか。
悟は知らない。