「おっはよー!」


 稲葉が私と口を利いてくれなくなってから、五日が経った。

 それでも私は普段と何も変わらない振りをして、教室の扉を開ける。

 けれど、教室の様子がおかしかった。

 普段は誰かが返事をしてくれるのに、誰も何も言ってくれない。

 扉の近くでおしゃべりをしていたクラスメイトも、私と目が合うと話をやめて、そそくさと離れていく。

 なのに、教室の隅のクラスメイトは、ひそひそと私も見て何事かささやき合っていた。

 居心地の悪さを感じながらも私は自分の席に向かい、そして凍りついた。


『レズ』


 机の上、板に直接黒々とした二文字が大きく書かれていた。それを彩るように、『死ね』や『キモい』という罵詈雑言が踊っている。

 誰がやったのだろう。

 誰がバラしたのだろう。

 立ち尽くし、遠巻きにするクラスメイトたちの視線を感じていた。

 仲のいい友達も、数人で教室の隅に固まっているだけで、何も言わないし近づいてもこない。

 ただ困惑した眼差しを向けてくるだけ。

 私は無言で立ち尽くし、唇を噛んだ。