最初に受話器を取ったのは母だった。

母は、いつもお世話になっておりますとか、御丁寧に御辞儀をしながら話していたのを覚えている。

見た訳では無いが、父から聞いていた癖なので、多分今回もしているんだろうと思うと、伝わる訳が無いのにと僕は苦笑した。

しかし一転、部屋の空気が変わったのを感じた。

僕には見えない分、そういう事に敏感だったので、これはただ事では無いと母に近寄り問い掛けた。

「どうしたの?何かあったの?」

母は何も応えてくれない。

思わず肩に手を置くと、母は小刻みに震えていた。

そして、ゆっくりと自分の意思では無い、何者かに操られた腹話術のように口を開いた。

「……梅が……居なくなった……行方不明……だって……」

コトン、と握り締めていた受話器が落ちる音がした。