現代社会の中には不可思議な話が多いが、その大半は信憑性の薄い作り話に過ぎない。それらは誰かが面白半分で作り、ネット社会の中で口伝のように広げていく。

 また時間の経過と共に姿を変え、全く別の話に変化する場合も多々ある。ある意味で、これも都市伝説と呼べる。

 しかしその中には、信憑性が高い話も存在した。それは〈月光花〉という植物のことについて。

 この花は、万病を治す薬。

 それも、一瞬にして。

 馬鹿馬鹿しい内容だが、信じる者は意外に多かった。何故なら、現代医学で治せない病を治すことができるからだ。

 だからこそ多くの人間がこの話を信じ、そして花を探し求める。

 そう、俺もその中の一人。

 勿論、それが存在しているかどうかという確信があるわけではないが、それを求める理由が生まれた。

 だから、俺は〈月光花〉を何が何でも探し出さないといけない。

 その過程で、彼――柚義(ゆぎ)という名の少年に出会う。

 彼は、一体何者だったのか。

 今もって、それはわからないでいた。しかし、ひとつだけハッキリと言えることがあった。

 彼は、俺達人間を試していると――


◇◆◇◆◇◆


「それ、本気なのか?」

 第一声は、このようなものであった。その声音は明らかに呆れているというのがわかり中には「現実を見た方がいい」と、本気で心配してくれる友人もいる。

 大事な友人を現実に引き戻そうとしている気持ちは痛いほど伝わってくるが、相手が雲を掴むような話であったとしても可能性に賭けたい。

「お前は、こういう話は信じないと思っていた。以前は鼻で笑っていたと記憶しているが……」

「昔は……な」

「あのことか」

 その言葉に、俺は無言で頷いていた。

 その反応に、周囲にいる友人達は押し黙ってしまう。誰もが複雑な表情を浮かべ、俺に同情の視線を向けてくる。

 別に同情を欲しいと思わない。これは、仕方がない。いや、仕方ないという表現で片付けていいものか。

 俺の恋人は今、病に臥せっている。