泊まった次の日は
大抵、先輩が
家まで送ってくれた。

手を繋いで、
たわいもない話しをして
二人で並んで歩く。

俺たちを知ってる人は
気にせず、
「相変わらずね」
と苦笑いして
やり過ごしてくれた。

それが心地好くて
それに浸ってしまい
すっかり忘れていたのだ。

この関係を
よく思ってない人も
居ることを……

そして、今日も
先輩と手を繋ぎ、
家に帰る途中で
不運が起きた。

偶然だったのだろう、
父さんに
見つかってしまったのだ。

男子高校生が
手を繋いで歩く光景は
"普通"の人からすれば
異様な光景に映るだろう。

「悠真」

名前を呼ばれ、
振り向いた瞬間
後悔したが
手を離す
ことはなかった。

茫然と立っていた
俺たちを父さんは
近くの公園に
連れて行った。

第一声は
「母さんには内緒だ」だった。

俺たちの
関係を拒絶された
瞬間だった。

「俺は認めない」

父さんは
はっきりと言った。

『なら、
認めてもらうまで
悠真と別れません』

先輩は震える
俺の肩を抱き、
真っ直ぐ父さんを
見据えて告げた。

続けて、こうも言った……
「俺たちには、
味方も大勢居ますから」と。

「悠真、帰るぞ」

公園を出て
父さんに言われ、
仕方なく
帰ることになった。

『尚先輩、
じゃぁね』

来た道を
戻って行く
先輩の背中に
そう言うと
無言だったけど
右手を挙げて
振ってくれた。

俺はその背中を
見送りながら
どうしようもない
不安感に駆られた。

そして、その不安感は
現実となってしまった。

翌週の週末、
父さんは{わざと}
家族で出掛ける予定を
無理矢理入れた。

何も知らない母さんは
「三人で出掛けるのは
久しぶりね」と喜んでいる。

俺は終始無言で
かなり不機嫌だ。

受け答えをするのは
母さんに話し掛けられた
時くらいで
父さんとは話さない。

先輩や皆には
行けない旨を
メールで伝えておいたが
喪失感がある……

そう思い始めた時、
携帯がなった。

着信音から
先輩だと気付く。

慌てて、電話にでた。

『もしもし』

『悠真、今いいか?』

大丈夫だと告げ、
携帯を持ち直した。

毎日聴いてる
先輩の声が
電話越しだと
やたら遠く聞こえる。

会いたい……

そう思ったら
涙が流れた。

『悠真、
泣いてるのか?』

電話口から先輩の
慌てた声が聞こえた。

声に出してないのに
なんで先輩には
わかるんだろ……

運転してる父さんと
助手席にいる母さんに
気付かれないために
「そんなことないですよ」
と嘘をついた。

皆が近くに居るのだろう、
架凜さんや衣緒里ちゃんに
彩葉さんの声がする。

『なぁ悠真、
明日、母さんと
一緒にお前ん家に
行くことにしたから』

ぇ……

先輩今なんて言った?

架凜さんと
家に来る……?

『あの時、
言っただろう
認めてもらうまで
別れないし
味方もいるからって』

先輩……

『わかりました
明日、待ってます』

俺は電話を切った。

**翌日**

先輩と架凜さんは
割と遅く来た。

『どうぞ』

二人を中に入れた。

父さんは驚き、
母さんは
不思議そうな顔をした。

俺は二人が来ることを
前以て言ってなかった。

『そうだろうと
思ってたけど
感が当たったな』

クスクスと楽しそうに笑った。

先輩と架凜さんは
回りくどいことはせずに
本題に入った。

「単刀直入に言います。
二人のお付き合いを
どうか許して下さい」

父さんに頭を
下げる架凜さんと
それに倣って
頭を下げた先輩を見て
俺も同じようにした。

「尚斗君といったかしら?」

自己紹介済みだ。

『はい』

緊張した面持ちで
先輩が返事をする。

「私は、二人が
幸福(しあわせ)に
なれるなら
それでいいと思うわ」


母さんはそこで
一旦、言葉を切り
こう続けた。

「だけど、
子孫だとか
世間体がどうとか
抜きにしても
なかには
貴方たちを
批難する人や
バカにする人
嫌悪する人だって
出てくるってことを
忘れては駄目よ」

母さんの言葉に
俺も先輩も父さんですら
ポカーンとしてしまった。

架凜さんだけは
ニコニコ笑っている。

『母さん……
ありがとう』

架凜さんも母さんも
これが「母強し」と
いうやつだろうか……?

『ありがとうございます』

先輩も深々と
母さんに礼を言った。

父さんだけが
いまだにポカーンと
したままだ。

そんな父さんを
放置して母さんは
架凜さんと
俺たちの話を始めた。

話しが弾んでるらしく
俺たちのことは
もう気にしていない。

『先輩、
部屋に行きましょう』

硬直したままの
父さんを置いて、
俺たちは部屋に向かった。

折りたたみ式の
テーブルを出して、
キッチンから持ってきた
お菓子とお茶を並べた。