『待って!』

全身に怪我を負った男の子は必死に女の子へと手を伸ばすが、その手は届かない。

その声も、届いていない。


女の子はと言うと、目を閉じてそれはそれは綺麗な歌声で歌を歌っている。彼女の背中からフッと翼のような物体が生えてきた。それが完全に翼になると、すうっと目を開け、


『…すまない。待てないんだ。あたしはどうしても行かなければならない…』

翼の生えた女の子は申し訳なさそうに言った。


『待ってよ!どうして俺を置いて行こうとするのさ!?』

悲痛な表情を浮かべる男の子に、

『…すまない』

謝る女の子。女の子も辛そうな表情をしている。


『そんな、謝るくらいなら俺のそばにいてよ!』


しかし悲痛な表情をしているのは男の子だけではなく、女の子もそうだった。


『あたしだって本当は、いたい。ずっと貴方の傍にいたい。…でも、できない。

あたしはずっとこの時を待っていたんだ。今、あたしの願いが叶う。

それにあたしが傍にいなくても貴方ならきっと幸せになれるから……』


『言わないで!そんなこと、そんなことない!だって俺は!俺は––––と一緒にいられたらそれだけで幸せなんだ!だから!』


女の子は驚いたような顔をしたがすぐ、穏やかで優しい表情をした。


『…ありがとう。あたし…貴方に逢えてよかった。幸せだった。あたし、貴方のことが何よりも大切だった。大事だった……そして、大好きだった』


『そんなの、俺もだから!だから傍にいてよ!』


『…ありがとう。そう思ってくれて嬉しい。またいつか逢えたときはまた、仲良くしてくれるか…?』

『そんなの、当たり前だから!』

今にも泣き出しそうな男の子に、女の子は穏やかな声で話しかけた。


『覚えていて。

どれだけ遠く離れたところに行ったとしても、あたしは貴方を忘れない。絶対に忘れない。

それに、また逢える。必ず、逢える…』


そして女の子は天に向かって羽ばたいた。

彼女の名前を呼ぶ男の子の悲痛な叫び声が、辺りに響いた。