あの夜を思い出すと、心臓がチクリと痛む。
失くしてしまった恋。
恋などとは言えないかもしれない。
子供のおもちゃのようなチープさはあっても、今の子供のおもちゃのように傷つかない配慮や壊れない安全基準なんてはじめからなかった。
恋なんて壊れてなんぼだものね。きっと。

12月の寒い日に、マフラーをぐるぐる巻いてお気に入りのワンピースを着てライブを見に行ったの。
もうすぐ活動を休止してしまうバンドを見るために。
ただそれだけのはずだったのに出会ってしまった。

全然知らないバンドで、なおかつサポートメンバーとしてステージに立っていた彼は笑顔が素敵で、オシャレで。長身モデル体型。
マリのタイプの男性かどうかは別として笑顔に惹かれていった。
バンドマンに恋をするなんてありえないと思っていた。
そもそもバンドマンとマリの住む世界は別で、マリは服飾の専門学生。
バンドマンとの接点なんてまるでなかった。
マリは楽器も演奏できなければバンドマンの知り合いすらいない。
マリとバンドマンは別次元の人間。

そう思っていたのに。
ステージで笑う彼に惹かれてしまった。