大学に着くと、講義室がある棟には目もくれず、真っ直ぐに部室がある建物に向かった。

文化系のサークル関係者は、得てして講義などには出席せず、自分の仕事をこなしているものだ。


2階に上がり漫画研究会の中を覗くと、案の定数人のメンバーと共に、藤田がせっせと机に向かってペンを走らせていた。

私は扉を30センチ程開けて、廊下に藤田を呼び出した。


「何だよ円城、今一番大事な場面なんだよ」

「あの…
部室の事なんですけど、明け渡しても良いかなと思って」

「本当か!?」

今まで面倒臭そうに話していた藤田の表情が、急に緩んで笑顔まで見せた。


「とは言っても、色々と荷物があるので今すぐという訳にはいきませんけど…」

「いやいや、直ぐじゃなくても良いんだ。譲ってくれるならそれで…

ただ、大学側がうるさいから、表向きはあくまでも演劇サークルの部室だからな」


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