ケータイ小説 野いちご

花魁道中は花盛り

タイトル未編集

青く澄み渡る空

梅の木にはウグイスが止まっている

吉原遊郭で一番の人気を誇る春宮は高い下駄に足を入れ歩き出す
揺れるたびに光を放つかんざし
豪華に重ね着した美しい着物

背筋を伸ばして

少し伏し目がちに


今日も花魁道中を目当てにたくさんのお客が集まっている

春宮が吉原に売られてから10年
最初は全てを恨んでいた
ここで好きな男は作らない
馴れ合う仲間もいらない
そう自分に言い聞かせ生きるうちに思うようになった

あちきはここで女王になってやる、と

そして努力の末に春宮は誰もが認める花魁となった

春宮は誇り高い花魁を目指した
教養をつけ町の大名方とも対等な話をし、また簡単には身体を許さず着物も着崩すことなく立派に着ていた

そこが魅力となったのだろう、春宮の客は絶えることがなかった

しかし春宮は今日で女王の座を降りることとなった
春宮がこの仕事を始めて10年
もう辞める時期だ
これが最後の花魁道中


いつもこの世は盛者必衰
あちきの栄華も終わりでありんす

終わってしまえば何の未練もない吉原を振り返り、春宮は一つの思い出を見つめる

左之助さん…


決してここで男を好きにならない
そう決めていた春宮だったが一人だけ忘れられない男がいた
彼は毎週金曜日の晩に訪ねてくれた

この人と一緒にはなれない
そう自分に言い聞かせた

必死に

必死に


やがて左之助はもうここへは来られないと言った
もともとそう大きくない商家の跡取り
吉原に通うには財産が足りなさすぎた

その日ばかりは春宮も心をしまうことができなかった
左之助に抱きついて泣いた

明け方、「ごめん、本当は添いたいと思っている」と言って帰っていった

長年心の奥へしまっていた左之助の後ろ姿が今花魁道中にかぶる
ため息をついてまた歩き出す

一歩、一歩…

そして吉原の出口に着いた
高い下駄を脱ぐ
つらい日々は終わったんだ、という感覚が春宮を包んだ



「春宮!」


聞き慣れたあの声
はっと目を上げると昔と変わらないあの姿

「左之助さん!」

春宮は走った
左之助の元に
下駄を放り投げ、豪華で重い着物を脱ぎ捨てた
それと一緒に吉原のしがらみも捨てた

身軽になって春宮は左之助に抱きつく

「ごめんな、今日まで待たせて。これからはずっと一緒だ」
「はい、はい!貴方だけを想っていました!」

春宮が久しぶりに心を自由にした瞬間であった

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