「…あ」
家に着いた刹那、突然疑問が現れた。
"あの女、なんでいつもマスク付けてんだ?"
思えばいつもだ。
付けていない日もあるといえばあるが、ほとんど毎日だった。
「幸人、いつまで玄関で突っ立ってるの。早く着替えなさい」
「あー」
"なんか、気になる"
その疑問は三日後に、より深まるのであった。






時は経ち、月曜日。
また一週間が始まる。
憂鬱だというと嘘になるが、だからと言って待ち遠しく感じるものでもない。
"最近は一週間が早いな"
なんてどうでもいいことを考えながら足早に学校へ向かった。
"あ、"
あれは、あのマスク女。
"そういえばアイツも家この辺だっけ"
友達と楽しそうに会話をしながら歩いてくるマスク女。
ふと目が合う。
「!!……」
一瞬、マスク女は言葉を失ったように目を見開いていた。
"変な奴だな"
その後のことは、俺がさっさと歩いて抜かしたからわからないけど。
予鈴が鳴るギリギリで教室に入った俺は
"あの女は予鈴遅刻かな"
なんて考えていて。
自分が何を思ったのかよくわからなかった。
「あ、あむちゃんおはよ〜!」
あの女を呼ぶ仲良さげな高い声を聞いて
"意外と早かったな"
なんて。
俺はなんだ?あの女の彼氏かよ。あり得ない。
まあ、告白でもされたら…なんて満更でもない考えをしてしまった俺は
"ないない"と首を振って一時間目の準備を始めた。
「聞いてよ!あ、荷物置かなきゃ」
そう言って、友達の側を離れ席に向かうマスク女。
マスク女とは同じ班だ。
だから、席も近いわけで。
毎回俺の前を通る。
まあ、だからと言ってどうということもないんだけど。
この時はただの気まぐれで、
"目が合ったら面白いな"なんて考えで、
この瞬間に目が合わなきゃ始まらなかったかもしれないんだ。
いや、確実に。
始まらなかっただろう。
ふと俺が顔を上げると、すぐに視線が交わった。
「…っ」
目を見開くマスク女。
俺は思わず、
「なんで毎日マスクしてんの?」
そんなことを聞いていた。
「………は?」
「…あ、」
周りが少しざわざわして、
"何聞いてんだ俺"
そう思ったのに
「あー、私喉弱くて!」
そんなあからさまな嘘をついて席へ向かった君は
薄っすら顔が赤く見えて
正体不明のトゲが心に刺さった。
それと同時に、
"なんでマスクしてんだろ"
そんな疑問がより一層深まったのであった。