「あ、今井くん!」
いつもと変わらない金曜の放課後。
一人のマスク女が話しかけてきた。
"確か、同じ班で--"
「俺のこと好きな奴か」
「…え"っ?!?」
「あ…いや、」
思わず声に出てしまったらしい。
この女、日比野あむは俺のことを好きすぎる。
初めて同じ班になった時、『今井くんほんとかわいい』『今井くんかわいすぎ…』と言われ続けられた。
まあ、俺はほとんどスルーな訳だが。
最近は面と向かって言って来ないが、それがより気持ち悪さを増す。
視線を感じることも、『今井くん』という単語も聞こえることも多々あるのだ。
"コイツ大丈夫か?"
自分がそんな状況になっても、俺は日比野が心配になるぐらいだ。
相当気持ち悪いと解釈してもらって構わないと思う。
「あ、92ページの訳!やってきた?」
「あ…」
班での英語の宿題だったハズの、教科書の和訳。
俺はすっかり忘れていたのだ。
「あ、忘れた?私もなんだよね!ごめんごめん、じゃあね!」
そう言って走り去るあの女。
"なんだったんだあの女は…"
「今井!お前日比野と何話してたんだよ?」
ニヤニヤしながら聞いてくるクラスメイトの青山。
「いや別に」
「ふーん、アイツおかしいよな」
「そう……だな」
「ハハ、何今の間!」
確かに、ちょっと変わってる…って言うかだいぶ……。