ワンコール


アヤメはお風呂から上がって、パジャマに着替えた。
肩よりも少し長めの髪を乾かそうとドライヤーを手にしたその時、mobileの着メロが鳴り響いた。



こんな時間に珍しい・・・誰だろう?


覚えのない、というかアドレスには入っていない番号からだった。

どうしよう?1秒迷って、出た。

「俺、おぼえてる?」


誰だっけ?・・・半年前に別れたKはこんな声じゃなかったし。

その前に、付き合ってた人って、誰だっけ?

数秒の沈黙。


「俺だって!忘れちゃったのかよぉ~」

「えぇ~?俺って云われても、ちょっとごめんなさい・・・」

「だから、俺なんだけど・・・といってもオレオレ詐欺じゃないから、安心して」

「うん、で、あなたはどちらさんでしょう?」

「君さぁ、子供の頃、犬飼ってたでしょ?」

「犬・・・ですか・・・。そういえば、小学生の頃、実家で仔犬を半年くらい飼っていたかな?」

「でしょ。俺は、その犬の生まれ変わりなんだよ!」

「へぇ・・・」


あまりに突飛な話の展開に、アヤメは電話を切ろうかと思って、止めた。

無理に切って、また掛って着ても面倒だし、着信拒否も面倒だし・・・


相手が本当は何処の誰なのか?


本当は知り合いなんじゃないか?


何か試されてるんじゃないか?


そんな、ことをあれこれと目まぐるしく考えていた。


「まぁ、信じないでしょ。でもね、生まれ変わりってあるんだよ!」
男は、妙に真剣な声で云った。


「そうかもしれないけどさ、犬とか動物が人間に生まれ変わったりもするのかなぁ?」

アヤメは素朴な疑問を、返してみた。


「犬はだいたい、次も犬に生まれ変わるらしいよ」


「そうなんだ・・・でも、おたくは、前世が犬で今は人間なんですよね?」


「いや、今も犬」

この人、ちょっとヤバイ人かなぁ?

どうしよう。

早めに切った方がいいかも。


「でも、人間の言葉を話してますよね?」

「キャン、キャン、キャンキャン!」

電話からは、仔犬が嬉しそうにじゃれる時のような声が聞こえた。

「スゴイ上手ぅ~なんか本物のワンちゃんみたい!!」


電話はそのまま切れた。




翌朝、親友のマミアからメールが着た。



「ちょっと相談なんだけどね、アヤちゃんのところってペット可だったよね。めちゃくちゃ可愛い仔犬がいてね、里親探してるんだけどダメかな?。一度、会ってみてよ、絶対気にいると思うよ!」


仔犬かぁ・・・昨夜の電話って、もしかして・・・まさかね~(笑)