* 『ーー……迷ったの?』 桜の木の下、陽だまりの中で彼は言った。 おそらく先輩だろう。 広い大学の中で迷っていたあたしに、彼はふわりとした笑顔で手を差し伸べてくれた。 『は、はい……』 『じゃあ、俺についてきて? 行きたい場所まで送ってあげる』 あの先輩はとても物腰がとても柔らかくて、紳士的。 ときめき、とは、こういう時にくるものだろうか。 とにかくその後、あたしは暫く教室でうつつを抜かした貌をしていた。 *