『ーー……迷ったの?』


桜の木の下、陽だまりの中で彼は言った。

おそらく先輩だろう。

広い大学の中で迷っていたあたしに、彼はふわりとした笑顔で手を差し伸べてくれた。


『は、はい……』

『じゃあ、俺についてきて?
行きたい場所まで送ってあげる』


あの先輩はとても物腰がとても柔らかくて、紳士的。


ときめき、とは、こういう時にくるものだろうか。


とにかくその後、あたしは暫く教室でうつつを抜かした貌をしていた。