水谷徹の魂は無事に学校を離れ天に上った。



もう学校で彼の気配を感じる事はない。

感じるのは…ある話題でざわつく生徒達の声。



真夏の暑い日差しの中、校門付近には連日多くの報道陣が詰め掛けていた。


15年前の水谷徹ノートは、彼の両親の手に渡り世間に公表された。



彼の両親に届けたのは勿論山本先生だ。



恐怖に取り憑かれ、水谷徹の指の跡を首に付けたまま、

彼女はノートを返し謝罪した。



虐めの隠蔽。

15年後に明かされた真実。


それはマスコミの格好の餌食となり、連日ワイドショーで特集されていた。



山本先生は自ら教職を退いた。


当時の加害生徒達は、実名までは報道されないが、

きっと所在を嗅ぎ付けたマスコミに追われ、今更な恐怖に震えていることだろう。



彼のノートをきっかけに全国の学校で虐めについて調査が行われ、

悲しい事件が二度と起こらない様にと大人達は知恵を出し合っていた。



水谷徹が巻き起こした社会現象について

「へぇ」とは思った物の、私の関心は既にそこにはなかった。



いや、関心がないと言うよりは、他に考えねばならない問題を抱えていると言った方が適切か。



彼の鎖は外れ、成仏出来たのはいいことだ。

15年引きずった重たい鎖から解放されて良かったと思う。



しかし…

その外れた鎖は消滅してはいない。



彼の鎖は今…私の心に巻き付いていた。



重たい苦しい想い。

それが鎖の形のまま私の心に巻き付いて離れない。



強烈な苦しさはないが、異物感が不快だ。

ジャラジャラと心に響く音も不快だ。



なぜ…?

なぜ私が鎖に縛られる?

想いを背負うと言う事の本当の意味は…コレなのか…?




―――――…