春、四月。

中学三年の始業式。


着慣れた制服に身を包み、いつもの通学路を歩いていた。


やわらかな陽射しが、緑の隙間からキラキラ輝いている。

鼻先をかすめる風は、ほのかに甘い香り。



終業式のときは、殺風景だった通学路。

たった二週間で、その風景は一変した。


鮮やかな色彩の海に溺れて、しばらく立ち止まり、ゆっくりと深呼吸をする。


「いいこと、あるといいな…。」


見上げた空は、ピンク色に染まっていた。




私はまだ、恋をしたことがない。

夢も未来もあやふやで、何となく毎日を過ごしていた。


そんな私を、大きく変えた出会いが待っていようとは、このときはまだ知る由もなかった。





中学三年の春、私は彼と同じクラスになった。


転校してきた彼の名前は上原海斗(かいと)、出席番号3番。

私は上原結(ゆい)、出席番号は女子の3番。



新学期の最初の席は、出席番号順。
つまり、私は上原くんの隣の席。


二週間もすれば、このクラスにも、上原くんにも、だいぶ慣れた。

無口な上原くんと鈍臭い私は、クラスメイトの格好の餌食。


名字が同じってだけで、周りから「夫婦」と冷やかされた。


「おい、上原の嫁ーー!!夫婦なんだから、上原とやったのかーーー?」


「どうなんだよ?答えろよーー!」



私は、下を向く。
こんなとき、どうしていいかわからない。


「気にすんな。」


声に驚き、私は顔を上げた。

教科書に挟んだ漫画に、視線を落としたままの上原くん。


「言いたいやつには、言わせとけ。」


「…うん。」



胸がドキドキする…。
なぜだかわかんない。