最初のデートからおよそ一ヵ月後。やっと時間の取れた来宮良寛は恵梨沙を二度目のデートに誘った。今度は学園が指定する場所ではなく、彼自身が選んだ場所に彼女を連れていった。それはサラリーマンが通う町の小さなバーだった。恵梨沙は八月に二十歳の誕生日を迎えたので、来宮は彼女を酒の飲める所へ連れていこうと思ったのだ。バーは成人したばかりの彼女にとって物珍しい場所だろうと考えた。

 基本的に、カメリア女子短期大学の学生はたとえ成人であっても、居酒屋やバーに行くことは禁止されている。同校の学生に限っては飲み会など行わない。彼女たちは学園から支給されるわずかなお小遣いを持って、学校近くの甘味処に行くぐらいである。もっとも、お見合いやデートの席では大人の男性を相手にするので、アルコールの一杯や二杯は許される。

 店に入ると、来宮が想像していたとおり、恵梨沙はきょろきょろと辺りを見回している。カウンターに通されて目の前のメニューを読むが、彼女は何を頼んで良いやらわからない。年下の女の子の初々しい様子を見て来宮は目を細める。兄さん風を吹かせて、彼は恵梨沙の好きそうなもの見繕って注文してやる。

 ふと横を見ると、カウンターの並びの席にキャリアウーマン風の女が座っていて、なにやらマスターに愚痴をこぼしている。エルメスのスカーフを巻いた小ぎれいな身なりの女で、年の頃は三十前後だろうか。彼女はかなり酔っ払っている。