優二と菫の二人は互いに手を取り合って源生寺の門を出ていった。門の内側に一人取り残された志穂美は、呆然と二人の去っていく背中を見送っている。

「仲睦まじいカップルですな」

 志穂美の背後で住職が無神経なことを言う。

「和尚さん。ちょっと訊きますけど、今日のことは谷野さんがセッティングしたんでしょう。彼女はあなたと予め打ち合わせをしていたんじゃありませんか」

 志穂美が穿った質問をする。

「ほう。あなたは、私とあのお嬢さんが出来レースを企てたとおっしゃるのですか」

「まあ、そんなところです」

「杉田さん。確かに私はあのお嬢さんを勝たせようと思っていました。ですが、それは彼女にお願いされたからではなく自分で考えたことです。考えてみてください。彼はあなたと付き合っていたのに、彼女に鞍替えしようとしたわけでしょう。そんな不誠実な男にいつまでも執着しているのは良くないことですよ。今は仲睦まじい二人ですが、今後彼の前にもっと若くてきれいな娘さんが現れたら、彼はまた浮気をするかもしれませんよ」

「和尚さんのおっしゃることはごもっともですけど、私、今年で三十になってしまうんです。あんな男ですけど彼だけが最後の砦だったんですよ」

「あなたはまだ三十前だというのに、結婚に焦っておられるのですか。私はあなたに『その内あなたにもいい人が現れますよ』なんて無責任なことを言うつもりはありません。男女の縁というものは誰にも予想できないものですから。でも、少なくとも一つ言えることは、『あんな男はおよしなさい。彼はあなたを不幸にしますよ』ということです。ああいうタイプの男性は、上昇志向の強いたくましい女性に任せておけばいいのです。自分を安売りしないことです」

 住職は優しい口調で諭した。

「そうね。和尚さんの言うとおりかもしれません。ちょっと目が覚めました。私、あなたにお礼を言わなくちゃいけませんね」

 志穂美は人差し指で目尻をこする。さっきまでイライラしていたのに、なんだか急にスッキリとした気分になった。

「人生は川のようなものですから、その流れに身を任せることです。決して抵抗してはいけません。そうすれば自然に道が開けてきますよ」