ざわざわ靴箱の奥が騒がしい。
というか群がっている。



(ああ、きっとあれだな)



いつものきまりのあれだと思い、私も人混みに紛れてみる。



壁に貼ってるそれを見ると、私の名前はいつもの位置にいた。





――1位  前田 想架 879点





この前の期末テストの結果だ。900満点のテストの。


うん。あのテストはまあまあの出来だったからな。こんなもんだろ。


自分の名前を発見したのでとりあえず人混みから出る。

人が多い所は好きじゃないから早く出る。
みんな押しすぎだよ。潰れるよ。ペチャンコだよ。



はあ、と溜め息をつき、自分の教室へと向かう。



と、今度はさっきと別の人混みが後ろから歩いてくるのが見えた。

まるで人の塊が動いているようだ。



……あれは毎朝のことだ。





人の塊の中心にいる人物、王子様こと仮村貴雪は昨日と違い笑顔を振りまいていた。



「仮村くんおはよう」

「おはよう」

「仮村くんかっこいい」

「おはよう」

「仮村くん今日も素敵」

「おはよう」




いや、あれは何かに取り憑かれたおはよう人間だ。



会話が成立していないのに話しかけた女子達はいつものごとくキャアと甲高い声を出す。その声はどこから出ているのか教えてくれ。




いつもはそんな恒例行事をスルーしている私だけど、今日は何となく出来なかった。

だって昨日の今日だよ?
24時間も経っていない時の出来事ですよ?

視界にいる男をスルー出来ますかね?


いや、出来ない。





あいつは、昨日私に黒い笑みで微笑みかけた奴だ。
今はニコニコとニコニコロボットのようだけれども。


有り得ない。有り得ない。



けど、不意に仮村くんと目が合ったとき、彼はやっぱり本性は黒いと思った。


だってあの目の奥は、鋭く光っている。
まるで言うんじゃねぇよ?と言っているかのよう。


怖いっす。