落とさないように潜水服にチェーンで繋いでおいた杖を握る。

特殊な金属で作られた銀色の杖は、スリサズの魔法の力を増幅させる。

海中をたゆたいながらスリサズは、心を静め、ヘルメットの中で呪文を唱えた。

「突き出せ、氷山!」

杖が指す先、スリサズの頭上で、術を受けた海水が凍りつく。

それは大きな塊になり、比重の関係で浮上して…

真上にあった筏をひっくり返した!





スリサズは海上に出て、壊れた筏の横に魔法で氷の筏を作り、その上に仁王立ちになって海面を睨んだ。

「これまでよ!
幻術師ッ!!」

氷の魔女の視線の先では、ビレオは人魚のくせに溺れ、死んだはずのロッコは泳いで逃げようとしている。

「二人の周りの海水よ、凍りつけ!
二人を引っ捕らえよ!」

スリサズの杖から魔法の光がほとばしる。

カキーン! カキーン!

杖を向けられた二人は、顔だけ外に出したまま、体は氷漬けになった。

氷は海面にぷかぷか浮かび、溺れることはもうないが、逃げることももうできない。

幻術の解けた姿を見てみれば、ビレオは老人人魚などではなくて、ただの人間の中年男性。

少年人魚のロッコは、こちらは人魚ではあるが、これまた中年男性だった。

「町長の家の鏡に、本物のビレオ町長の遺体が映っていたわ。
ナイフで刺し殺されていた」

海上に氷の浮き橋を作り、スリサズがつかつかと中年人魚に歩み寄る。

「ロッコ…
いえ…
ウーロね。
人魚の町の助役の」

氷の中でウーロは、寒さのせいか恐れのせいか、ガタガタと体を震わせている。

「本物のビレオ町長を殺したのはアナタね。
町長はダイイング・メッセージを残していたわ。
アナタに刺されたナイフを町長が引き抜いた時、血煙が海水に広がったせいで気づかなかったんでしょ。
町長は、そのナイフの刃で、床にアナタの名前と幻術師の共犯だってことを刻んでいた!」

本来なら、刺された時にはナイフをすぐに抜いてはいけないのだが…

町長は、自分は助からないとわかっていたのだろう…