「お疲れ様です!」


俺は先輩や上司に向かってそう言うと、駅に向かった。


俺の名前は村田真幸、建設会社のサラリーマンで、現在婚約中の彼女がいる。


彼女は社会人になってから出会ったんだ。


大学4年生の時に失恋して、傷心中だった俺を救ってくれた人だ。


その彼女に今とても会いたいが、生憎彼女は友達と旅行中なのだ。


俺は1人で飲もうかと、方向転換して土曜日の夜の街を歩き回る。


日曜日の前夜を楽しむ人々の間を通り抜けながら、俺は適当な店を探した。


そして、ひっそりと佇む小さな居酒屋に入る事にした。


派手な店ではないせいか、客は少ない…と思ったら違ったようだ。


「すいません。
今日は貸し切りで。」


「そうだったんですか!
すいません。」


そう言って、俺が出ていこうとした時だった。


「いいよ。
もう殆どの先生が帰られて2人しかいないし、1人なら。」


「昴がそういうなら。
何度もすいません、宜しければどうぞこちらに。」


「ありがとうございます。」


俺は店の人に言ってから、貸し切っていた人にもお礼を言おうと近付いた。


「すいません。
本当にありがとうござ…」


おれは途中で言うのを止めてしまった。


それは、何年も前に会った人だった。


「いいんだ。
皆帰ってしまったし、1人は眠ってしまってるし…」


その人も俺の顔を見て固まっていた。


「貴方は確か…村田さんですよね?」


「はい。
村田真幸です。
北条昴さん、でしたよね?
お久しぶりです。」


これはなんという偶然だろうか。


俺は出会ってしまった。


元カノ-妃奈-の好きだった人に。


「久しぶり。
あの時一度ご飯に行った時以来だったかな?」


「そうですね。」


奇妙な会話だった。


お互いが何を、どこまで話したらいいか迷っている状況だった。


そんな流れなのに、店の人は俺らが一緒に飲むかと思ったようだ。


ビールを2杯持ってきて、北条さんの座っているカウンターの上に置いた。


「あとはごゆっくり。」


そう言って、店の人はいなくなっていしまった。