ずっと憧れていたバスケ部の
田之上先輩に
夏休み前、思いきって告白してから
三ヶ月が過ぎた。


絶対にフラれるって
覚悟してたんだけど、


「いいよ」


って、
まさかのオッケイを貰えた。
そして晴れて念願のカレカノに
なったのだ。










「先輩ッ、練習お疲れさまでした。」


部活帰りの先輩に声を掛ける。


「お前、待ってたの?」


「迷惑、でしたか……?」


「なわけ、ねぇーだろ。
ほら、行くぞ。」


そう言ってさりげなく私の手を
取って歩き出す先輩。


先輩の大きな手から
温もりがジワジワと伝わってくる。


「お前さ、何ニヤニヤしてんの?
だらしねぇ顔だなぁ。」


口は悪いけどその目は優しくて
なんとも言えない笑顔で私を
包んでくれる。


田之上先輩を好きになったのは
高校の合格発表の時、
少し校内が気になって、
春休みで誰もいないのをいいことに
こっそり見て回ってたんだけど


ふと、
体育館の方から
音が聞こえて……
中をそぉーっと覗いて見たら


田之上先輩が一人で
バスケのゴールに向かって
シュートの練習をしていた。


何度も何度も
ボールを放って
そしてそのボールは全て
綺麗な放物線を描いて
ゴールネットに
吸い込まれて行く。


わぁ……すごい


ゴールを真っ直ぐに見つめる目は
真剣そのもので
真っ黒なストレートで少し長めの前髪が
時折、体育館に抜ける春の風に
揺らされていた。


その姿は美しくて
あまりにもの格好よさに
暫く見とれていると


ガンッ


ボールがゴールに当たって
跳ねて私の足元へと転がってきた。


トンっトンっトンっトントントン……。


ど、どうしよう……。
拾って渡した方が良いよね……。
だけど、
勝手に見てた訳だし……。


「おい、突っ立ってねぇで
こっちに寄越せよ。」


初めて聞いた先輩の声は
怒っているようで怖かった。


「ススススススイマセン……。」


急いで拾って、
ボールを持って行こうとしたら


「おい、土足で入るんじゃねぇよ。」


「あっ、はいっ、すすすいません。
キャッ!」


ドタッ、バタン


慌てて靴を脱ぎ体育館へと
足を踏み入れたんだけど
見事に転けた……。


「クックックッ……。
お前、おもしれぇ……。」


蛙のように倒れてしまった私。
そぉーっと顔を上げると
先輩は何とも言えない
優しい笑顔で手を差し出してくれていた。


「ほら、つかまれ。」


この時から、
私の心は先輩へと真っ直ぐに動き出した。