それは、クリスマス一週間前。

 俺は、行くあてもなく街なかをうろついていた。
 歩き慣れた古びた商店街の店先には、バカの一つ覚えのようにクリスマスツリーが飾られ、商店街を覆うトタンの屋根にくくりつけられたスピーカーからは、これまた古臭いクリスマスソングが流れている。
 
――どいつもこいつも、クリスマス、クリスマスって、浮かれてんじゃねえよっ

 俺は、作業用の防寒着に身を包み、ポケットに手を突っ込んだまま、その、見慣れた店先を睨みつける。すると、店のあちこちから飛んでくる非難の声。

「なんだ、こんな時間に!マサ!また仕事サボってんじゃないだろうな」
「いい加減、母さんを安心させたらどうなんだい?」
「おう、おう!クリスマス前に、一緒に歩く彼女の一人もいねえってんじゃ、先が思いやられるねえ」
「マサ!いいところに来たな。この鍋、修理したから持って帰ってくれ」

 生まれてこのかたこの街から出たことのない俺にしてみれば、商店街は、庭のようなもの。
 どこもかしこも、俺のハナタレ時代を知り尽くした店主ばかりだ。
 
「ったく、うっせんだよ!ほっとけっつうの!何がクリスマスだよ!こんな大根や鍋しか売ってねえてめえらのところには、いくらツリーなんて飾っても、サンタなんかやってこねえんだよっ」


 そう悪態をつき、俺は、八百屋の店先に置かれたツリーにおもいきり蹴りを入れる。

 が、しかし。

 俺の手には、しっかり、鍋が握らされていた。