翌朝、まだ朝日が昇り切る前に私は家を出た。


光の朝ご飯を用意して、椅子の上に手紙を添えた。




『お父さんが帰って来るまで、家のことよろしくお願いします。来週には、戻ります。許してください。藤乃』



他人行儀な文面に、私の精一杯の強がりを込めた。




光もわかっているはずだ。


昨夜のことは、お互いになかったことにした方がいい。


何事もなかったように、母と息子を演じ続けよう。



そう決めて、大きな重い門を押した。





行くあてがあるわけではなかった。




電車を乗り継ぎ、ただ光から離れた場所へ向かう。




窓の外の景色がとても美しいのに私の頭の中には光のことしか入ることができない。



景色は、一瞬目に入るだけで、脳に記憶されることはない。