あの夜は忘れもしなかった。

最初に彼と出会った夜。

私は取材と偽って、国の特別組織の調査を行っていた。

私の仕事？

名画「黒を纏う騎士」を狙う組織を見つけ次第、速やかに逮捕すること。

これが単なる絵画ではなくて国宝級の宝で、海外に流出だけは避けなければならない貴重な品らしい。

その最初の現場になったのが、女優、松下奈菜の誘拐事件。

正直、名画泥棒とは関係なくて表側の新聞記者の取材で騒ぎにたまたま居合わせたって感じだった。

女優が突然、車で拉致されて車の中で上半身裸の状態にさせられ、刃物を喉に突きたてられて、人質にされるという事件があった。

路上封鎖により車を引きとめることに成功したが、人質は解放できず、睨み合いが始まった。

犯人グループは興奮のあまり、人質の喉から血が出るほどにナイフを強く押し当て、人質は恐怖のあまり気絶した。

そんなとき、遠くから突然の銃声が聞こえてきた。

銃弾は人質を抑える犯人の手の甲に命中した。

そのとき、私は見た。

クロードが空から頭から飛び込んできて、身を翻して犯人グループを回し蹴りで牽制し、手にしていた鞭で犯人らの持っていた武器を叩き落とした。

さらに背後で銃を構えていた男から、素早く銃を取り上げた。

まるでその動きは、忍者のそれともいえるほどに早く、目で追いかけるのも難しかった。

その隙をついて警官が突入、気付けば彼は女優とともに姿を消していた。

それから女優、松下奈菜が言うには、彼は袖口から小さなフリルの付いた服を取り出し、彼女に素早く着付けたという。

松下が名前尋ねようとしたときには、既に彼は姿を消した後だったという。

当時の状況を、松下も胸に手を当てて、目は完全に星が舞うような感じで、こう語った。

「ちょっと冷たい感じがしたけれど、初めてのお姫様抱っこに、魔法のような手品で周囲の視線から私を守ってくれたのが感激でした。キスしてくれたら、もう最高だったのに」

とノロケ顔。